■Shit!Shit! シット。(カネ×ミノ)


…負けてしまった。
苗場大会のトーナメント決勝戦。
俺はあの人にピンフォールを取られてしまった。
パートナーのナガタさんには悪い事をしてしまったなあって思う。
次の大会でIWGPに挑戦するのに…俺のせいでケチをつけてしまった。
「すいません、ナガタさん…大事な試合の前なのに負けちゃって」
控室で俺はナガタさんに謝った。
「仕方ないよ。俺だって助けに入れなくて見殺しにしちゃったし」
ナガタさんは申し訳なさそうな顔でそう言った。
そんなの…俺がもっと強ければ、あの場を凌ぎ切れた筈だし。
「やっぱ同期の絆ってのは強いのかもなあ」
そうひとりごちると、ナガタさんはため息をついた。

同期…か。そういやあの人とテンザンって仲が良かったっけ。
同じ関西出身で、同期入門で。
プレデビュー戦は一緒にバトルロイヤルに出たんだと、
いつだったかあの人が懐かしそうに話してくれた。
…俺の知らないあの人を知っている男。
正直…試合中から気になってた。イライラしてた。
俺がいたあの人の隣に、当たり前のように立っている。
いくら同じT2000だと言っても、普段はまったく組んだりしないのに
目を合わせなくても阿吽の呼吸で連携をやってのけてた。
あの人がが長時間捕まっている時、テンザンはカットに入ってこなかった。
俺なら必死になって助けに行くだろう。
でもテンザンは…「返せ!」その一言だけ。それで十分なんだろう。
戦って、競い合って、一緒に登りつめてきた仲。
そうやって築き上げてきた信頼っていうのは、やはり強いのか。
俺とあの人の関係とは…明らかに違う。
俺とあの人は…あの人が差し伸べる手に、俺が必死について行って。
『あの人と肩を並べられるようになりたい!』
俺はそう思って頑張った。いつもあの人を見上げてた。
俺が頑張れば頑張るほど、あの人は喜んでくれた。
「よぉやった!」って言って、抱きしめて頬にキスをくれた。
人前で恥ずかしかったけど…嬉しかった。
嬉しいから頑張って…追いかけて、追い付きかけて。
やっと俺からあの人に抱きつけると思ったら…あの人は向こう側へと行ってしまった。
どんなに手を伸ばしても、手が届いたとしても、もう握り締めてはくれない。
やっと肌に触れたと思ったら、突き放され、蹴飛ばされ…。
―――地獄に落とされた気分になった。

表彰式で見せた、あの人の笑顔。久しぶりに見た、会心の笑み。
テンザンの横で笑ってる。イライラに拍車が掛かる。
俺といた頃と同じ笑顔なのに―――横にいるのは俺じゃない。
腹の底で、どす黒い思いが渦巻いているのがわかった。
「俺以外にそんな笑顔を見せるな!!」
そう叫びそうになってた。

「俺はあなたにとって…一体、何だったんですか?」
一時の気まぐれだったんですか?暇つぶしみたいなもんですか?
「俺とあなたの関係って、何だったんでしょう?」
やっぱり昔からの仲間には、同期には勝てないですか?
「俺は信頼出来ない奴でしたか?」
一緒にいた時間は、そりゃあ同期の奴には勝てないけれど。
あなたを想う気持ちは、あなたを信じる気持ちは誰にも負けない。
「俺の想い…あなたに届いてなかったんでしょうか?」
見返りを求める気はないけれど、わかってもらえてなかったのなら悲しすぎる。
「俺よりその人といる方が楽しいですか?」
俺は…俺は…もう必要ないんですか?

「―――ミノル?」
ナガタさんに声をかけられてハッと我に返った。
「どうした?お前、すごい怖い顔してるぞ」
そう言われて壁に掛かっている鏡を見た。
そこには…嫉妬に狂った醜い顔が映っていた。
嫉妬したからって、あの人が帰ってくる訳じゃないのに。
「ホントだ…すごい顔ですね。どうしちゃったんだろう?俺…」
俺は自分の顔が滑稽に見えて、笑ってしまった。
「―――頑張れ。辛いだろうけど、頑張れよ」
酷い顔のまま笑う俺にナガタさんはそう声を掛け、頭を撫でてくれた。
…目から溢れるこれは何なんだろう?
悔し涙か?悲しみの涙か?―――あの人への想いなのか?
溢れるほど、あなたの事を…醜い顔になってしまうほど…今でも…。

「こんな顔してちゃ、キスどころか振り向いてももらえないよな」
そんな事を思いながら、俺は涙を拭った。



20020403




■サクシャ、コソーリツブヤク。

タイトルはBarbee Boysの曲から。
内容と合ってないですね(苦笑)。






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